日本が幕末、明治維新と激動期を迎える少し前に、ヨーロッパでは19世紀後半から万国博覧会(以下、万博)が開催され、多くの国々が威信をかけて産業品を出品し、華やかな万博全盛期を迎えます。日本も1867年のパリ万博から浮世絵などを出品し、それらはジャポニスムとしてヨーロッパの芸術活動に影響を与えました。また、当時の日本の窯業界では、西洋の焼成法などが紹介され、新たな時代が始まります。
初代宮川香山(1842~1916)は、こうした激動期に陶磁器の作成のため1870(明治3)年に京都から横浜に移り、眞葛(まくず)焼として京焼の伝統を踏まえた作品や緻密に装飾された「高浮彫(たかうきぼり)」などを、1876(明治9)年のフィラデルフィア万博から次々に発表しました。それらの作品は数多くの受賞を果たし、“マクズ・ウエア”として絶賛を博しました。しかし香山はその成功にとどまることなく、釉薬や中国古陶磁の研究に邁進し、一層の成功を収めました。その多岐にわたる作風は、同時期に万博に出品していたロイヤル・コペンハーゲンなどのヨーロッパの名窯にも影響を与え合うほどのものとなったのです。
今回の展示では、前期の「高浮彫」から、後期の中国古陶磁と釉薬の研究による作品に至るまで、日本の近代陶芸を牽引した香山の全貌を、田邊コレクションを中心に紹介します。
※展示点数 : 約150件
※会期中、展示替えがあります。
名称 | 特別展 「没後100年 宮川香山」 |
会期 | 平成28年4月29日(金)~平成28年7月31日(日) |
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会場 | 大阪市立東洋陶磁美術館 | 休館日 | 月曜日(5/2、7/18は開館)、7/19(火) |
開館時間 | 午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで) | 主催 | 大阪市立東洋陶磁美術館、NHK大阪放送局、NHKプラネット近畿、朝日新聞社 |
協賛 | 日本写真印刷 | 協力 | 神奈川県立歴史博物館 |
観覧料 | 一般1,200(1,000)円、高校生・大学生700(600)円 ※( )内は20名以上の団体料金 ※中学生以下、障がい者手帳などをお持ちの方(介護者1名を含む)、大阪市内在住の65歳以上の方(要証明)は無料 |
制作協力 | NHKプロモーション |
同時開催 | ※「宮川香山展」開催のため、規模を縮小して展示しています。 [平常展]安宅コレクション中国陶磁(25点)、 安宅コレクション・李秉昌コレクション韓 国陶磁(24点) 沖正一郎コレクション鼻煙壺 |
問い合せ |
大阪市立東洋陶磁美術館 TEL.06-6223-0055 FAX.06-6223-0057 |
1881(明治14)年
高36.5㎝、口径39.8×19.5㎝、底径16.5×16.3㎝
東京国立博物館蔵 TNM Image Archives
(全期間展示)
四方に開いた口縁部に重なり合った二匹の蟹を、迫真の描写によって施した花瓶です。脚部や強く歪ませた胴部の力強い造形と、そこにかけられた二重の釉薬の表現は、当時の水準をはるかに超えるすぐれた作品となっています。香山にとって、初期の代表作といえる作品です。
1893(明治26)年
高52.1㎝、口径14.5㎝、胴径25.8㎝
東京国立博物館蔵 TNM Image Archives
(全期間展示)
口縁部から裾にかけて、美しいS字状の曲線を描く玉壺春(ぎょっこしゅん)といわれる形をとっています。ふっくらとした胴部から頸部一面に、濃淡の鉄絵具で蕾を多く持った梅樹を墨絵風に描き、白梅は白抜きで表されています。馥郁とした香気さえ感じられる花瓶です。本作は、1893年のシカゴ・コロンブス万国博覧会への出品が確認される現存の唯一の作品です。
明治時代前期・19世紀後期
高29.7㎝、口径16.3㎝、底径14.6㎝
田邊哲人コレクション(神奈川県立歴史博物館寄託)
(全期間展示)
重要文化財の「褐釉高浮彫蟹花瓶」と並ぶ香山の高浮彫の代表作の1点です。日光・東照宮の国宝「眠猫」に因んだ作品として知られています。東照宮の「眠猫」と同様に水指の胴部に牡丹の花が高浮彫で施された華やかな水指ですが、蓋と水指の口縁部と裾に表された金彩の文様帯が作品を引き締めています。