友の会通信

美術館の舞台裏(43)
最近刊行された文化庁文化財保護部作成の「文化財(美術工芸品等)の防災に関する手引」には、震災時における文化財の被害の要因としてつぎの三つを挙げています。すなわち1)移動・転倒・落下等による被害 2)火による被害 3)水による被害がそれです。現実問題としてはこのほか、盗難による被害という要因も考慮に入れておいた方がいいかもしれません。

これらの被害の要因のうち、もっとも直接的で瞬時のうちに文化財を損傷させるのが震災時の移動・転倒・落下等による被害であることは言うまでもないことです。多くの美術館・博物館が真剣に取り組まなければならない緊急の課題です。

当館の場合は開館以来、地震についてはかなり対策を講じてきました。平成7年の阪神淡路大震災以後、さらにそれを強化し、1)免震装置 2)EQガードの設置を計ったことはすでにご紹介してきた通りです。文化庁より「手引」が発刊されたことを契機に、もう少しその仕組についてご紹介することとします。

免震装置は、大きく二種に分けられます。その一は、建物全体、あるいは展示室全体をゴムやバネでできた巨大な耐震装置で支えるもので、当然、建物の設計段階から計画されなければならないものです。その二は、展示ケースや展示物を下から支える置台のようなもので、現状の建築構造に手を加えずに設置が可能です。いくつかの層になったローラーの板が水平方向に移動することによって地震波の衝撃を吸収するというのが、これらの免震装置の基本原理となっています。しかしこうした免震装置もかなり大型となるため、実際に使用する場合、価格や美観上の問題がネックとなっていました。当館の場合、こわれ易い陶磁器を一点づつ、その上に載せることができ、ケース内で使用しても美観を損なわないということを発想の原点に置きました。メーカーと何回となく打ち合わせを行い、およそ半年間の試作を繰り返した結果、遂に縦横40㎝、高さ4㎝という世界最小で、美観上もほとんど問題のない小型免震装置を完成することができました。 (次回に続く)

1997年9月1日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
back