友の会通信

美術館の舞台裏(26)
安宅コレクションの米国巡回展を廻る話題のしめくくりとして、この展覧会に対するアメリカの新聞評をご紹介しようと考えていましたが、この10月10日から開催されている10周年記念展の準備で予想外に時間を取られ、遂にまとめることが出来ませんでした。

今回は慌しい中で、何故そのように慌しいのか、よく美術館長というのは優雅な仕事だと言われもし、考えられてもいるようですが、他館の場合はいざ知らず、当館の場合は優雅どころか、一年を通じて館での執務時間が平均して10時間、今のように特別展準備期間に入ると12時間から14時間になるという激務であるという実態の一部をご紹介することと致します。

当館の場合、私は館長であると同時に、美術館の運営を大阪市から受託されている財団法人の常務理事であり、事務局長であり、さらに事業課長でもあり、四つの役職を兼務しております。このうち、事業課長とは、学芸課長に当り、学芸部門を直接統轄する役職です。

例えば今回の特別展の図録を作成する時の仕方は次のようなものです。どのような論文を揃えるか、出品物をどのような順序で、どのような大きさ、どのようなトリミングで図版掲載するか、出品物1点につき図版を1点とするか、或いは高台裏を含めて複数とするか、出品物の作品表記をどうするか、制作年代を何時と考えるか、図版や論文以外に何を盛りこむか、例えばどのような年表や地図や諸資料を掲載するか、さらに表紙のデザインや活字の書体や大きさなど、細々としたことを学芸スタッフやデザイナーと相談しながらすべて自分で判断し、決定していかねばなりません。年表一つ取っても、今回も当館独自の東アジア対照年表を作りだしました。

要するに図録作りというのは、印刷所やデザイナー任せでは心が通わず、いわば手づくりの創作作品でなければなりません。特別展の図録作りにおいて、事業課長はすべてに責任を持つ編集長となるのです。

1992年10月30日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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