友の会通信

美術館の舞台裏(23)
現在、米国で巡回中の「安宅コレクション朝鮮陶磁展」に関する現地の反響の一端をお伝えしましょう。

11月23日から2月3日までシカゴ美術館で開催されましたが、公式発表では、6万人にのぼる参観者があり、好評裡に迎えられたようです。反響の一つは、開幕当日に開催された朝鮮陶磁に関するシンポジウムの参加者数によってもうかがえます。米国の研究者3名と私を含めて4人の研究発表があり、その後、活発な質疑応答が行われましたが、当初、シカゴ美術館ではこの種のシンポジウムでは100から200人位の出席者が通例であるので、小ホールを予定していたそうです。しかし出席希望者の申込書が560名にも達し、あわてて大講堂に切りかえたそうです。結局、当日は寒波のため出席者は450名にとどまったといいますが、それにしても当初の見込みを大幅に上廻っています。同じように、報道関係者を集めた午餐会や開幕前夜のレセプションにも、通例の2、3倍の出席者があるなど、嬉しい番狂わせで担当者は汗だくで調整をしていました。シカゴ最大の新聞「シカゴ・トリビューン」も一頁全面を割いて批評と紹介記事を掲載しました。造詣の深い人たちはもちろんのこと、朝鮮陶磁について何の予備知識を持たない人たちも魅きつけているのは、やはり物そのものの持つ大きな魅力でしょう。朝鮮陶磁の自然な味わい、あふれる詩情、温順な暖かさなど、知識や教養に関係なくじかに心に響くものがあるからと思われます。

私が米国に滞在中、しばしば聞かれたことは何故日本の美術館が朝鮮陶磁展を米国で?ということでした。それに対して、「米国の美術館がフランス美術展を日本で開くのと同じでしょう。それは朝鮮陶磁の美しさを紹介するとともに、日本人の美意識を紹介することでもあるのです。」と答えると誰もがすぐ納得してくれました。

今、安宅コレクションの朝鮮陶磁は米国で静かな深い共鳴を呼びおこしつつあります。

1992年3月1日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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