友の会通信

美術館の舞台裏(12)
現在、シカゴ美術館『中国美術名品展』を開催中です。それにちなんで今回は、欧米の美術館の事情、とくに日本の美術館との相違についてご紹介しましょう。

欧米の代表的な美術館を訪れると、一般の方にもすぐ目につくことがいくつかあります。たとえばレストランが充実していて、美術館へ食事のためだけに訪れる人も多いこと、図書室というより図書館といいたいほど蔵書が豊富で、それが簡単に閲覧できること、ミュージアム・ショップの規模が大きく、内容もヴァラィェティに富み、その売上金額は日本では想像もできないほど多額であること、入館無料の日があって、そんな日はとくに混雑していることなどです。

ところが、一般の方の目に触れないいわば美術館の舞台裏でも大きく違っています。シカゴ美術館を例にとると、その一は美術品の修理部門を専門に持っていることです。陶磁や青銅器、石造物などはもちろんのこと、絵画についても印象派などの近現代絵画と古典絵画との二つの部門があります。古典絵画の修理室は、ガラス張りの天井を持つ立派なアトリエです。

その二は写真部門のスタッフが揃っていることです。シカゴ展の図録の写真もすべてこの写真部所属の職員が撮影しました。部長以下9名のスタッフが撮影や保管に携っており、フィルムは見事に整理されています。日本でもごく限られた美術館に写真撮影のスタッフがいますが、その場合でもせいぜい一人で、彼我の相違はかなり大きいといわねばなりません。

その三は美術館に梱包、解梱の専門部門があることです。今回の展覧会の梱包もその人たちが中心に行いました。その人たちが休む暇もなく作業に従事しているということは、それだけ館として美術品の貸し借りが多いということになります。ちなみにシカゴ美術館の東洋部が管理している美術品だけで 35,000点あるということでした。

その四は、美術館の職員はすべて写真入のカードを胸につけていることです。外部の人と区別できないほどスタッフがいるわけで、シカゴ美術館には職員録に記載されている人だけで500名以上数えることができます。

スケールの大きさにかけては欧米の美術館との間にはかなりの差があることがおわかり頂けると思います。

1989年3月15日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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