黒田泰蔵さんの白は、真理を求めてやまない心の色である。 ―安藤忠雄
黒田泰蔵(1946–)は、静謐な白磁の造形で世界的に知られています。20歳でパリに渡り、1967年にカナダで陶芸に出会った黒田は、帰国後の1982年に初個展を開催します。白磁の作品を初めて発表した1992年からは、これが創作の中心となってゆきました。
黒田の白磁作品は、薄く緊張感のある輪郭線をもちながら、表面には柔らかく美しい弧を描く轆轤目が見られ、見る者にそれぞれの作品の確かな存在感を印象づけます。作家は、白磁のうつわをつくることを「イエスとノーの間の言葉」を表現することに例えています。つまり、言葉にならないことを、かたちにして共有する方法だと捉えているのでしょう。
本展では、イセ文化基金所蔵品と大阪市立東洋陶磁美術館所蔵品を中心に、黒田泰蔵の白磁作品約60点を展示いたします。梅瓶を意識した作品から、轆轤の回転運動をそのままに、直線と円とで構成される「円筒」まで、作家を代表する造形によって黒田泰蔵の世界をご覧いただきます。
名称 | 特別展 「黒田泰蔵」 |
会期 | 令和2年11月21日(土)~令和3年7月25日(日) |
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会場 | 大阪市立東洋陶磁美術館 | 休館日 | 月曜日(11月23日、1月11日、5月3日を除く)、11月24日、12月28日~1月4日、1月12日、5月6日 |
開館時間 | 午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで) | 主催 | 大阪市立東洋陶磁美術館 |
協賛 | イセ文化財団 | ||
協力 | (株)タイゾウ | ||
入館料 | 一般1,400円(1,200)、高大生700円(600) ( )内は20名以上の団体料金 中学生以下、障がい者手帳などをお持ちの方(介護者1名を含む)、大阪市在住の65歳以上の方は無料(証明書等提示) |
展示点数 | 約60点 |
同時開催 | [特集展]「柿右衛門―Yumeuzurasセレクション」 [コレクション展]安宅コレクション中国陶磁・韓国陶磁、李秉昌コレクション韓国陶磁、日本陶磁、沖正一郎コレクション鼻煙壺、現代陶芸 |
問い合せ |
大阪市立東洋陶磁美術館 TEL.06-6223-0055 FAX.06-6223-0057 |
壺
2019年
白磁
高26.9cm 幅21.2cm
大阪市立東洋陶磁美術館所蔵(孫泰蔵氏寄贈)
登録番号05655
Photograph by T. MINAMOTO
黒田泰蔵は、白磁の制作を始めた45歳の頃に「轆轤成形、うつわ、単色」という条件を決めて制作するようになりました。轆轤で成形することによって、自律的に、回転体で縁の立ち上がるかたち―すなわち「うつわ」となります。かたちとしてのうつわは、必ずしも実用を前提としておらず、作家は、そのかたちを美しい抽象的な形態として捉えています。本作は、小さな口に張った肩をもち、胴裾にかけてすぼまる、黒田の「梅瓶」として知られるかたちです。丁寧に磨かれた滑らかな表面と、豊かな曲線による均整のとれたかたちは、黒田作品の特徴をよく表しています。
壺
2019年
白磁
高29.8cm 幅12.6cm
大阪市立東洋陶磁美術館所蔵(戸田博氏寄贈)
登録番号05659
Photograph by T. MINAMOTO
筒形の胴部に円錐形を被せたような、独特なシャープなかたちです。特に口縁部はゆるやかに波打ちながら、薄く繊細に成形されています。黒田は、「直接自分の手、指と轆轤を使うことでまるで魔法のように空中に線を引くことができる材料」に魅了されたと言って、轆轤で成形することについて「一度きりの抽象絵画を空中に創出する」ことに例えています。一見すると幾何学的でミニマルに思われる造形ですが、表面には轆轤目と磨き跡が残され、豊かな質感と微妙なニュアンスが含まれていることに気づかされます。
壺
2019年
白磁
高15.1cm 径16.5cm
イセ文化基金所蔵
Photograph by T. MINAMOTO
上部に小さな口をもつ円錐形は、中は空洞で確かにうつわですが、轆轤成形によるかたちとしてはあまり類例がありません。円錐は、真横から見ると三角形ですが、立体としては曲面によって構成されます。単純な構成要素のうつわは、空間や隣り合うものと呼応して、見る者に自由な解釈を促します。黒田は、「白磁という方法論をもって真理を知りたい」と言います。黒田の創作活動は、社会現象を映すような現代美術のアプローチとは異なり、真理の探求という思索を、現実にかたちを持つものによって表現する試みなのかもしれません。
割台皿
2018年
白磁
高22.5cm 幅35.6cm
イセ文化基金所蔵
Photograph by T. MINAMOTO
小さな高台から、ゆるやかな曲線を描いて上部にかけて広がるかたちは、重心が上にくることで軽やかな浮遊感があります。天板には、焼成前に意図的に大きな割れ目が入れられています。「破袋」として知られる伊賀焼の水指のような、やきものの窯割れを想起させる一方で、ルーチョ・フォンタナが《空間概念》で「芸術に新しい次元を生みだし、宇宙に結びつくこと」を求めたこととも通じます。作品の纏う静謐な空気を破るように、力を加えられて鋭く裂けた切り口の表現は、他の作品とは逆のアプローチを模索する作家の試みかもしれません。
円筒
2016年
白磁
高7.8cm 幅9.0cm
イセ文化基金所蔵
Photograph by T. MINAMOTO
黒田作品を代表する造形が「円筒」です。轆轤の回転運動によって、垂直に引き上げられた円筒形は、円と直線で構成されるシンプルなかたちです。極めて薄い口縁部は、低速で回転する轆轤で成形され、釉薬を掛けない表面は丁寧に磨かれています。轆轤によって人の手で創られるものとしては、これが緊張感を維持し得る適当な大きさなのかもしれません。円筒には、「見えるもので、見えないものを現す」ことによって作家としての責務を果たす、という黒田の思いが込められています。美しい円筒は、作家の理想を具現化しようとする表現だといえるでしょう。
Photograph by T. MINAMOTO
展覧会会場では、静岡県伊東市にある自然豊かな作家のアトリエや、併設されている安藤忠雄設計のギャラリーに作品を配した様子などを映像でご紹介いたします。