17世紀後半の有田において、主に輸出向け製品としてつくられた柿右衛門様式とよばれる磁器は、丁寧に成形された姿と、乳白色の素地、余白をとりながら愛らしく生き生きと描かれた動植物などの色絵による図様を特徴とします。中国磁器の影響を受けながら日本独自の洗練さを極めていった柿右衛門は、ヨーロッパの王侯貴族に愛され、宮殿などに飾られました。
本展で紹介する「Yumeuzurasコレクション」は、ヨーロッパの宮殿などで所蔵される大型の柿右衛門とは異なり、掌のなかで愛玩することができる小さな作品を中心として構成されています。長年にわたって柿右衛門を収集し、同コレクションを形成した関西在住のコレクターの眼は、動物や子供たちが表情豊かに描かれている「カワイイ」柿右衛門に向けられてきました。同コレクションから選りすぐった「Yumeuzurasセレクション」約54点による、柿右衛門の魅力をお楽しみください。(前期・後期で一部作品の展示替えを行います)
名称 | 特集展 「柿右衛門―Yumeuzurasセレクション」 |
会期 | 令和2年11月21日(土)~令和3年7月25日(日) |
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会場 | 大阪市立東洋陶磁美術館 | 前期2020年11月21日(土)〜2021年3月28日(日) 後期2021年3月30日(火)〜2021年7月25日(日) |
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開館時間 | 午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで) | 休館日 | 月曜日(11月23日、1月11日、5月3日を除く)、11月24日、12月28日~1月4日、1月12日、5月6日 |
主催 | 大阪市立東洋陶磁美術館 | 入館料 | 一般1,400円(1,200)、高大生700円(600) ( )内は20名以上の団体料金 |
展示点数 | 約54点(前期・後期合わせて) | 同時開催 | [特別展]「黒田泰蔵」 [コレクション展]安宅コレクション中国陶磁・韓国陶磁、李秉昌コレクション韓国陶磁、日本陶磁、沖正一郎コレクション鼻煙壺、現代陶芸 |
問い合せ |
大阪市立東洋陶磁美術館 TEL.06-6223-0055 FAX.06-6223-0057 |
江戸時代・1670-1690年代
肥前・有田窯(柿右衛門様式)
(左)高3.0㎝、口径13.5㎝
(右)高3.0㎝、口径13.4㎝
Yumeuzurasコレクション
写真:野村淳
型を用いる「型打ち」により成形し、濁手(にごしで)とよばれる乳白色の素地に色絵で文様を描いた典型的な柿右衛門様式の作例です。みどころは、梅の樹の下で寄り添う鶉たちの表情です。小さく描かれた鶉の目を1羽ずつ見ていくと、それぞれの表情の違いに気づきます。青色であらわされた鶉のうち1羽は目を閉じながらくちばしをあけ、笑っているようにも見えます。梅と鶉を組み合わせた文様はとても人気があり、マイセンをはじめとするヨーロッパの諸窯で写されました。
江戸時代・1670-1690年代
肥前・有田窯(柿右衛門様式)
高4.5㎝、口径23.0㎝
Yumeuzurasコレクション
写真:野村淳
見込みに描かれているのは、北宋の政治家、学者であった司馬光(1019-1086)の幼年期の故事に取材した甕割図です。司馬光は水甕の中に落ちてしまった子供を助けるため、石を投げ大切な甕を割って命を救ったと伝えられ、甕割図ではその救出の場面が描かれます。甕は割られ水が流れ出していますが、溺れかけていた子供はまだ甕の中にいて泣いているような表情を浮かべています。線描による眉や目の表現から子供の心情までみてとれるような、柿右衛門様式ならではの繊細な筆致の上絵付であるといえます。ヨーロッパに伝わっていた類品には高台に穴が開けられたものがあることから、壁に掛けて鑑賞していたことがうかがえます。
江戸時代・1670-1690年代
肥前・有田窯(柿右衛門様式)
高9.3㎝、口径18.3㎝
Yumeuzurasコレクション
写真:野村淳
余白をとりながら見込みと外側面に花木を大きく描いた柿右衛門様式の輪花鉢は主に輸出向けにつくられ、ヨーロッパに伝わっています。口径約24㎝の大きさの作例も知られていますが、本作は18㎝余と比較的小さくつくられています。鉢の内側には、花弁を1枚ずつ描き出した大ぶりの牡丹が口縁部に迫るように描かれ、型打ち成形による花をかたどった器形とともに華やかな印象をもたらしています。類品の出土例や売立目録などにより、少数ながら日本国内に伝わっていたタイプでもあることがわかっています。
江戸時代・1670-1690年代
肥前・有田窯(柿右衛門様式)
高16.7㎝、最大幅18.0×13.0㎝
Yumeuzurasコレクション
写真:野村淳
傾けた瓢箪に把手を付けた形の色絵の水注です。器表には、赤・青・緑の3色をバランスよく用いて翼を広げた鳥と葡萄文を配します。瓢箪の上下のふくらみに赤い房飾りのある青色の組紐をめぐらせた様子をあらわし、把手の付け根には葡萄の葉をかたどった装飾が貼りつけられています。下部のふくらみの上部には液体を入れるための穴があけられ、葡萄の葉を模した蓋がついています。立体感のある装飾が随所に施され、造形性豊かに仕上げられています。