今回の展示では、フランス宮廷に育まれ、時代とともに変化し続けてきたセーヴル磁器製作所の300年に及ぶ活動をご紹介いたします。
セーヴル製作所は、ヨーロッパで磁器への憧れが大いに高まった18世紀、1740年にパリ東端のヴァンセンヌに生まれた軟質磁器工房をその活動の始まりとします。強大な権力を誇る国王ルイ15世の庇護を受けて、パリとヴェルサイユの間に位置するセーヴルへと移転した製作所は、王立の磁器製作所となり1769年には硬質磁器の開発に成功します。宮廷に愛された画家や彫刻家が招かれて知的で洗練された作品を生み出し、ルイ16世とその王妃マリー・アントワネットに納めたほか、外交上の贈り物としても用いられ、ロシア皇帝エカテリーナ2世をはじめとした王侯貴族を魅了しました。フランス革命の混乱を経てナポレオンが台頭すると、セーヴルは新古典主義の作品を製作し、19世紀半ばからの万国博覧会の時代にはテーブル・ウェアという範疇にとどまらない作品へ展開しました。日本との交流では、20世紀初頭に外国人作家として初めて、沼田一雅が型の製作に携わりました。こうした芸術家とのコラボレーションは、ピエール・スーラージュや草間彌生などと、伝統的なテーブル・ウェアの製作と併せて現代も精力的に行われています。
今回、製作所の300年の歴史を物語る、セーヴル陶磁都市の所蔵作品約130件をご紹介します。変化しながらも常に優雅で洗練された作品を製作し続けてきた、セーヴル磁器の魅力を感じていただければ幸いです。
名称 | 特別展 「フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年 / 300 ans de création à Sèvres: Porcelaine de la Cour de France」 |
会期 | 平成30年4月7日(土)~平成30年7月16日(月) |
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会場 | 大阪市立東洋陶磁美術館 | 休館日 | 月曜日(4/30、7/16は開館) |
開館時間 | 午前9時30分~午後5時(入館は閉館の30分前まで) | 主催 | 大阪市立東洋陶磁美術館、朝日新聞社 |
企画 | セーヴル陶磁都市 | 協賛 | 大日本印刷 |
協力 | 日本航空、日本通運 | 後援 | 在日フランス大使館/ アンスティチュ・フランセ日本 |
観覧料 | 一般1,200(1,000)円、高校生・大学生700(600)円 ※( )内は20名以上の団体料金 ※中学生以下、障がい者手帳などをお持ちの方(介護者1名を含む)、大阪市内在住の65歳以上の方は無料(証明書等提示) |
展示点数 | 約130件 |
同時開催 | [平常展] 安宅コレクション中国陶磁、安宅コレクション・李秉昌コレクション韓国陶磁、沖正一郎コレクション鼻煙壺 |
問い合せ |
大阪市立東洋陶磁美術館 TEL.06-6223-0055 FAX.06-6223-0057 |
1757年
高28cm
セーヴル陶磁都市所蔵
Photo © RMN-Grand Palais (Sèvres, Cité de la céramique) / Martine Beck-Coppola / distributed by AMF
ポプリ壺は、香りを拡散するために乾燥させた花と香辛料を入れるもので、18世紀には特に寝室や浴室において欠かせないアクセサリーでした。この壺は1756年にジャン=クロード・デュプレシによってデザインされ、1760年代の終わりまで製作されました。円形の小形の台に支えられ、かつては花弁状の透かし彫りが施された蓋がついていました。初めて緑色の基調色が用いられたのは、まだ製作所がヴァンセンヌで活動していた1753年のことです。早くもその翌年1754年には、緑色の基調色に、多彩色の子どもたちや鳥、花などを組み合わせた作品がみられます。この壺に描かれるのは、ジャン=ジャック・バシュリエに基づくオウムなどのエキゾチックな鳥たちです。こうした画題からは、宮廷内の、特にポンパドゥール侯爵夫人による、博物学的関心や珍しい動物に対する熱狂ぶりが窺えます。
1781年
小鉢:高5.5cm、蓋:高6cm、受け皿:口径14.4×18.4cm
セーヴル陶磁都市所蔵
Photo © RMN-Grand Palais (Sèvres, Cité de la céramique) / Tony Querrec / distributed by AMF
セーヴル製作所は、フランス宮廷をはじめとしたヨーロッパの王侯貴族からの依頼により、婚礼や同盟締結などの歴史的な出来事を記念する製作を多数おこなっています。本作は、王冠をかたどった鈕(つまみ)や取っ手にイルカの装飾が施されています。イルカ(dauphin)、つまり「ドファン」という呼び名は、未来の王位継承権を持つフランス王の長男を指す名称であり、フランス革命に消えることとなる将来のルイ17世を表わします。1781年10月22日に誕生したルイ16世とマリー・アントワネットの息子の誕生を機に、セーヴル製作所はドファンを象徴する動物であるイルカで装飾された特別な品々を製作しました。このスープ用蓋物も、その誕生イベントを記念したものです。潤沢な金彩装飾もまた、王の用いるものであることを強調しています。
2005年
高40cm
セーヴル陶磁都市所蔵
Photo © Sèvres, Cité de la céramique, Dist. RMN-Grand Palais / Gérard Jonca / distributed by AMF
セーヴル製作所では、その時代を代表する画家や彫刻家などの芸術家や、装飾家を起用した製作を早くからおこなっていました。それは現代においても同様で、テーブル・ウェアの製作と併せて続けられています。アレクサンダー・カルダーやピエール・スーラージュなど著名な芸術家が招かれて、新しい素材と向き合い、古典的な壺のフォルムを昇華させる創作活動をおこなってきたのです。本展でも、日本人作家を含むセーヴルの現代の作品をご紹介します。本作は、草間彌生による《ゴールデン・スピリット》という作品で、頭頂が逆立ち、全身が金で覆われてキュクロプスの一眼を頂く交雑動物を表します。セーヴル製作所が得意とするビスキュイ(無釉白磁)による彫刻ながら、本作は目の部分に彩色を施し、全体が鍍金されています。草間がセーヴルのために製作した作品で、パリのギャラリー「GALERIE PIECE UNIQUE」と共同で、シリアルナンバー付きで18点が発表されました。