友の会通信

美術館の舞台裏(42)
今回は、美術館の建築の設計施工に対する指針のうち、収蔵庫についてご紹介します。

収蔵庫は、重要な文化財を長期にわたって安全に保管するため、安定した環境を作り上げることを目指さなければなりません。

まず、地下水や日射の影響を避けるため、地階や最上階、建物の南西部などに位置しないことを指針では求めています。しかし、今日の建築技術をもってすれば、位置の問題はそう大きな問題にはならないでしょう。むしろ収蔵庫の構造についての留意点に目を向けるべきです。指針では、収蔵庫の壁を二重壁にすることを勧めています。すなわち、二重壁によって温湿度などの外部環境の影響を少くするとともに、空気の流通をよくする環境づくりが可能となります。その場合、外壁と内壁の間に点検を可能とする空間を確保すること、内壁には室内側から点検口を設けることに注意を向けています。これを忘れると、結露や漏水などがあった時、収蔵庫の外壁を取り壊さなければならない大修理のおそれが出てきます。外壁と内壁の隙間は、最低20センチないと人の首を廻すことが出来ず、内壁を設けることはそれだけ収蔵庫の容積が小さくなりますが、慎重を期するためには止むを得ないことでしょう。

また、収蔵庫内の床材・壁材などは材料を十分吟味し、とくに木材を使用する時には十分な乾燥と虫害や「やに」の点検が必要です。

収蔵庫の出入口は原則的に一箇所として、密閉性と防火性を高めます。出入口の扉には、「鼠返し」をつけることも大事なことでしょう。また収蔵庫の電源は、収蔵庫外から切れるようにして漏電を避けること、収蔵庫に前室を設置して、庫外の影響が庫内に及ばないようにすることも忘れてはなりません。

収蔵庫には収蔵棚が設けられますが、棚の位置は庫内の出入口付近や、空調の吹出・吸込口を避けなければならないのは当然のことです。さらに収納棚は、棚どうし固定すると同時に、棧などを使って内壁と固定して地震の際の転倒、移動を防ぎます。棚には必ず棧、あるいは鍵のかかる扉をつけて、収納品の落下することのないよう注意すべきで、ほんの一寸した心掛けが、貴重な文化財の損傷を防ぐことにつながります。

1997年4月15日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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