友の会通信

美術館の舞台裏(30)
6月26日から8月8日まで、当館で「ヨーロッパに開花した色絵磁器−柿右衛門」展を開催し、予想通りの盛況を呈しました。

柿右衛門が日本人の間でひろく愛好されているのは、小学校の教科書にも取り上げられ、日本のやきものの故郷であるかのような印象が焼きつけられていること、陶器ではなく磁器である点で実用的価値が高いこと、美術品の一般的傾向として暖色系のものが好まれること(例えば絵画で言えば青富士より赤富士が好まれる)、乳白色の地の柔らかさが磁器の冷たさを感じさせないこと、絵付けが華やかでありながら淡白であり、瀟洒な味わいを持つことなどが理由として挙げられるでしょう。日本の色絵磁器としては他に九谷、鍋島、伊万里などがあり、それぞれの美的性格を持っていますが、柿右衛門の大きな特長は伊万里とともにヨーロッパ向けの輸出商品であったところにあります。

ここでヨーロッパにおける陶磁器の展示方法について触れたいと思います。柿右衛門や伊万里などの色絵磁器は、ヨーロッパでは実用品として使われたばかりではなく、室内装飾用としても利用されたことはご存じの通りです。家具や暖炉の上に、あるいは壁面や飾り棚などに所狭しとばかり並べられ、室内空間の中でその存在感をいわば同時併列的に主張しています。日本人の感覚からすれば、並べ過ぎといった感じを否めないのです。しかしこうした見せ方は、ヨーロッパの美術館の絵画や工芸品の展示方法にも、そのまま踏襲されています。ヨーロッパの美術館学における展示方法は、このように出来るだけ多くの作品を同時併列的に並べることに基本があるようです。それは美術館的展示ではなく、むしろ博物館的展示と言った方がよいでしょう。

かつてストックホルムの極東美術館のヴィルギン館長が当館を訪問された時、当館の展示を見て「一点一点の良さが生かされ、互いに互いの良さを引き立てている。ヨーロッパでは伝統的な制約があって、こうした展示が出来ず、貴館が羨ましい」とつくづく述懐されたことがあります。西欧から学ぶべきことは多くありますが、こと展示に関する限り、日本は日本独自の美学的見地から、日本独自の展示法を考えていって良いように思います。

1993年8月20日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
友の会通信一覧へ戻る