友の会通信

美術館の舞台裏(25)
安宅コレクション米国巡回展は、すべての日程を終え、7月29日、無事当館に帰って参りました。ほぼ10ヶ月に近い長旅で、その間、シカゴからサンフランシスコ、サンフランシスコからニューヨークまでは、それぞれ3泊4日、4泊5日のノンストップのトラック便による移動でした。これに添乗した当館の学芸員は、それこそアメリカ大陸の広大さを身につまされて感じたことでしょう。日本列島の北から南より長い数千キロの距離を、3人の運転手が交互にハンドルを握り夜昼なしにひたすら走り続ける様子は、文字通り美術館の舞台裏をかいま見るようです。

アメリカの美術館の管理部門の仕事振りは厳しく、トラックの発着の都度、時刻や車輌番号、運転手名などを克明に記録していくなど徹底したもので、教えられるところが多くあったとの報告を受けています。

さてメトロポリタン美術館での様子、まずその開幕レセプションについてお伝えします。

レセプションは、美術館と展覧会のスポンサー・住友銀行の共催によって5月20日に行われました。会場は美術館でももっとも壮麗な展示空間・一階のサックラー・ウィングです。ここは広大な空間で、1階から2階をぶち抜いた吹き抜けになっていて、その中に紀元前15年頃建造のエジプト神殿がそっくり移築されています。これは遺跡保存に対するアメリカの数々の援助に対して、エジプト政府から寄贈されたもので、メトロポリタン美術館の展示の中でも見所の一つになっているものです。高さ25メートルの石造の門と神殿が、周囲に池を廻らせて建てられています。最近のパーティでの通例のように、スピーチは一切なし。展覧会を見終わった招待客は、すべてこのパーティ会場に誘導されてきます。夕闇がせまり、池の廻りに何百というローソクが灯され、ライトアップされた神殿の壮厳きわまりない姿が浮かび上がっています。壇上では静かな弦楽四重奏が奏でられ、まるで夢の中の出来事のようです。1,000人に近い招待客は展覧会での興奮をパーティ会場で再び呼び起こされ、静かなざわめきは夜遅くまで続いていました。

1992年8月31日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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