友の会通信

美術館の舞台裏(24)
安宅コレクション朝鮮陶磁の米国巡回展をめぐる話題を続けます。

ヨーロッパやアメリカの美術館を見学された方は、陶磁器の展示の仕方が日本、とくに当館の場合とはまったく違っていることにお気づきのことと思います。展示ケースの中に高い台や低い台を置き、あるいは壁面を使い、いわば立体的構成の中で陶磁器が展示されているのが一般的です。そこでは一点づつの美しさや魅力を余すところなくゆっくり見せる、というより一群の陶磁器を集団で見せ、そこにかもしだされるハーモニーを重視する姿勢があきらかに見られます。これは絵画や彫刻などと違って陶磁器をふくめた工芸品の場合の、欧米の基本的な展示の方法です。こうした展示方法をかりに「群展示」と名づけましょう。

それに反して当館の場合は、一点一点をじっくり鑑賞して頂こうという姿勢を貫いたいわば「個展示」です。これは日本の伝統的な美意識である茶道の影響を受けた典型的な日本的展示方法の一つと言えましょう。今回の巡回展でも「個展示」を取り入れるよう強く希望しました。シカゴ美術館では、高名なデザイナーの設計による特設ケースが作られました。展示のバックの色や素材、照明や展示台の高さにも気を使い、ケースの寸法もセンチ単位でこまかく打合わせするなど、十分な意志の疎通が計られたのも、責任者であるシカゴ美術館東洋部長、蓑豊氏の鋭い日本的感性があったからと思います。こうした展示方法はアメリカでも初めてのことで、現地の新聞批評欄でもディスプレイだけが大きく取り上げられたことがあったほどです。展示は物だけが語ることの出来るように、そして音楽の流れるように、という私共の展示理念が実現され、大きな評価を得たことを誇りに思います

シカゴに続くサンフランシスコ美術館では、残念ながら諸種の事情で、私共の希望が取り入れられず「群展示」になってしまいました。美術館的ではなく博物館的展示になっていたことは、両会場を見た人から多くの批判も出ましたが、陶磁器に対する考え方、感じ方の相違で、これも止むを得ないものでしょう。

1992年4月30日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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