友の会通信

美術館の舞台裏(22)
安宅コレクションのアメリカ巡回展をめぐって、いろいろな話題を紹介していきましょう。

まず経費の負担について。一般論として言えば、日本で海外展を開催する場合、その経費はすべて日本側が負担し、出品者側に支援を求めるなど、まず考えられません。しかし逆に、日本から海外に展覧会を持って行く場合、受け入れ側が負担するのは当然である、という日本的な考えは必ずしも通用しないことがあるようです。事実、アメリカのある美術館の責任者が私に話したところによると、日本の美術館や文化団体から費用を全額負担するから何とか開催して欲しいという申込みが多く、断るのに困るぐらいだとのこと。「もっとも内容次第だが・・・・・・」と笑いながらつけ加えていました。

現実的には、日本からの海外展は政府間ベースで開催されるなど特殊な場合を除いて、何らかの形で日本側が経費の大半、あるいは一部を負担していることが多いようです。

今回の巡回展では、当館をふくめ、大阪市としては一切経費の負担はしていません。それは1989年度にシカゴ美術館の東洋美術展を当館で開催した時、すべて日本側で経費負担をした見返りに、今回、交換展という形を取ったからです。しかし結果的には、アメリカ側は独自に日本の企業に寄附を依頼し、経費の大半は日本側の負担ということになりました。

これは美術館運営における寄附に対する日米の考え方の相違でもあります。アメリカの代表的な美術館は、ほとんど寄附金によって運営されています。日米の助成財団ベスト・テンの助成金額合計を比較してみますと、1989年度の米国は1270億円(1ドル140円換算)。それに対して日本は80億円で、日本においては自然科学や文化芸術、奨学金などに対する寄附の規模がはるかに小さいことがわかります。アメリカでは寄附をすることと、寄附を受けることがいわば日常茶飯事になっているのです。日本の美術館がアメリカで展覧会を開催するに当って、アメリカ側が日本の企業に寄附を求めに来たのは、当然のことだったと考えるべきなのでしょう。

1991年8月27日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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