友の会通信

美術館の舞台裏(20)
美術品の写真をめぐる権利問題は、美術品の所蔵者、写真の撮影者、写真を出版物等に利用しようとする使用者、これら三者間の権利関係ということになります。

まず所蔵者の立場からすると、所蔵する美術品の写真までは権利がおよばないという判例がすであり、法律的には一応、結論が出されているといってよいでしょう。しかし現実問題としては、日本の大多数の美術館・博物館がいまなお写真掲載に関する規定を独自に持ち、申請に対する許可制度を取っていること、また、使用者の手許に必要とする写真が無い場合、所蔵者から借用するか、新規に撮影しなければならないという事情もあります。その意味からいうと、撮影済みの写真を使用者が所持していない限り、やはり所蔵者の了解、すなわち掲載の許可を取るという現在の慣行は生きつづけていることになります。使用者の立場からしても、所蔵者との間にトラブルを起こすよりは、事前の了解を取りつけておくほうが無難です。この問題が将来さらに活発に論議され、美術館・博物館の間で掲載許可制度が廃止される動きが定着するまでは、当館の場合も、一応、現行のままで進みたいと考えています。

次に撮影者の権利問題ですが、美術品の写真のほとんどは、その美術品をできるだけ客観的に写しとることを目的としています。高名なカメラマンが仮に芸術的に撮ったとしても、白磁が青磁のように写っていたり、あるべき文様がまったく見えないというような場合は、やはり問題が生じます。ごくわずかな例外を除いて美術品の写真というのは、主観的な表現性より客観的な再現性が重視され、撮影者の個性をできるだけ抑えることが求められるのです。その場合、撮影者の著作権は、あいまいなものになってしまいます。したがって、資料としての美術品の写真には、撮影者の著作権というものは始めから除外して考える場合が多いのが現状です。

美術館・博物館をめぐる写真の版権問題は、まだまだ整理されていないと言わなければならないでしょう。

1991年3月31日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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