友の会通信

美術館の舞台裏(14)
6月から7月にかけて「ルゥーシー・リィー展」を開催しました。欧米の現存作家の作品を取りあげるのは当館として初めてのこと、しかも日本ではほとんど知られていない作家ですから、不安があったことは事実です。

この企画展の目的は、現代英国を代表するルゥーシーのすぐれた作品を系統的に紹介することにありました。それと同時に、三宅一生氏が何故ルゥーシーの作品に魅かれたのか、そのことが今まで陶磁器に縁のなかった人にも関心を呼ぶのではないか、そういう人にルゥーシーの作品とともに当館の中国や朝鮮陶磁の持つ魅力も知って頂きたい、いわばまったく新しい観客層の掘りおこしを狙ったものでもありました。この狙いは結果的に大きな成功を収めたようです。東京でもルゥーシー展を開催し、それは建築家・安藤忠雄氏の斬新な会場構成とともにジャーナリズムを賑わせましたが、大阪では東京展のほぼ2倍の入館者数を記録し、その中には当館を初めて訪れたという人が多数含まれていたことで裏づけられます。

会期中、入館者の方からアンケートを取りました。この展覧会の内容を非常に良い、まあまあ良い、あまり良くない、わからないの四つのランクに分けて回答して頂きましたが、非常に良いが67.5%、まあまあ良いが29.5%で、両方を合わせると97%という圧倒的な数字でこの展覧会が評価を受けていることがわかり、主催者としても感慨ひとしおでした。アンケートの感想欄に書き記された多くの言葉は、それ自体感動的です。内容は大きくルゥーシーの作品そのものに対する感銘、すなわち作品の客観的評価と、ルゥーシーが女性であり、87才という高齢でなお盛んな制作を行っていることに対する賛歎と共鳴、すなわち人生論的な評価の二つに分かれます。それに私にとって予想外であったのは何十人という方が「素晴らしい展覧会をして頂いて、本当に有難う」という感謝の言葉を書き添えて下さっていたことです。

展覧会終了後、ルゥーシーは三宅一生氏に手紙を寄せました。そこには短く次のように記されていました。「あなたは私を甘やかし過ぎます。でもとても嬉しい」 。

1989年9月15日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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