友の会通信

美術館の舞台裏(11)
今回は、展示におけるGRADING(等級分け)についてお話ししましょう。

前回のGROUPINGでは、分類の基準は、そのものの持つ外見上の特徴に目を向けたものでした。すなわち、製作年代や国、技法などの大分類ののち、形や大小、釉色や文様、あるいは用途などの共通項をとらえて、さらに細かくグループ化していきました。これに対してグレィディングとは、そのものの質的水準に焦点を合わせて分類していくものです。ここで、美術品の質的水準を決するものは何か、という大きな問題に行きあたります。これについては別の機会にゆずることとして、ここでは簡単にA、B、Cなどの質のクラスを仮定して話を進めましょう。

展覧会を企画するとき、一つの特定のテーマを設定して、それを表現するのに最も適当な資料(美術展では主に美術品)を選定して出品リストを作成します。Aクラスのものは、数量的に限られますから、B、Cクラスのものを含めることも止むを得ないことです。

テーマを効果的に展開するためには、展示に工夫を加えなければなりません。床の間にあたるメインケースにAクラスのものを並べて会場の雰囲気を引き締めることも、その一つです。またAクラス1点、Bクラス1点、Cクラス2点を並べる時、A−(C、B、C)あるいは(B)−A−(C、C)というように、格の高いものを少し離すとか、順序を変るとか、敷板に一段階高く載せるとか、配列にアクセントをつけるのもその一つです。

展示配列には、一定のリズム感を持たせることが必要だと考えます。静かな導入部から、語りの部分がしばらく続き、やがてクライマックスを迎えて静かな余韻とともに幕を閉じる、というような展開ができれば素晴らしいことです。そのためにはグレィディングによる分類をしっかり行い、展示配列にめりはりをつけることが求められるのです。

グレィディングとは、企画にたずさわる者にとって、その知識と経験と感性の総力を結集して、新しい評価基準のもとに価値体系を形づくる、その基礎ともなる重要な作業なのです。

1986年9月10日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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