友の会通信

1988年6月15日
現在、当館の企画で、山梨県立美術館で、「李朝陶磁 500年の美展」を開催中です。ついこの春には、福岡県立美術館で、同じ出品内容による展示会を開催いたしました。

二つの会場を比べてみると、まったく同じ出品内容の展覧会でありながら、まるで二つの違った展覧会を見たような印象すら受けます。もちろん、会場の広さ、構造、展示ケースの配置や色などの相違による雰囲気の差が大きく影響しているのでしょう。しかしそれだけではないような気が致します。その理由を考えると、展示プランにおける作品のGROUPING(グループ分け)とGRADING(等級分け)が大きな役割を果たしていることに気付くのです。今回はグルーピングについて触れてみましょう。

グルーピングとは、何らかの共通項を見出して、何点ずつかを一つのグループに組み合わせることを言います。判りやすい例として、10個のリンゴを並べるとしましょう。この場合、どのような並べ方があるか。富士が4個、紅玉が6個あるとすると、大きく種類別に(富士4)+(紅玉6)という分け方がある。今度はその種類別の中でも大きさという点に注目すると、大小があり、その大小のグルーピングはたとえば(大大小)+(大)、(大大大)+(小)、(大)+(大小大)といった並べ方ができます。大きさというポイントのほかに、赤や青のリンゴの色、形の整ったものと凹凸の多いもの、柄の大きいものと小さいものなど、いろいろなポイントがあり、どのポイントを選ぶかによって、グルーピングにはさまざまな方法があることがお分かり頂けると思います。そして展示する空間の幅、奥行、高さ、質などの条件から、どういうグルーピングをしたら、最も個々の物の特徴がよく捉えられるか、美術品の場合なら、最も美しく見えるかが決まってくるのです。

このグルーピングを理屈だけで考えると、どうしてもしっくり来ないことが多いようです。見た感じが不釣合いなようでも、理屈だけで割切って強引に展示している例、あるいは極端な場合、グルーピングの意識もなく、無闇に等間隔で作品を羅列的に展示している例すらよく見られます。適切なグルーピングは、展示の順序に一種のリズム感を与えます。鑑賞者に快い緊張感を呼び起こしながら、見終わった後の充実感をもたらします。グルーピングの出来不出来が、展示プランの成否に大きく影響するのです。

1988年9月15日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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