友の会通信

美術館の舞台裏(9)
昨秋、当館の開館5周年を記念して開催した「李朝陶磁500年の美」展は好評を博し、各地を巡回することになり、4月29日から約1ヶ月は、福岡県立美術館で開催されました。

当館の館蔵品が大量に館外に出たのは、これが初めてです。当館以外の会場で展示する時は、陶磁用の展示ケースを備えているところが少ないので、新しく臨時の特設ケースを作りつけなければなりません。絵画展示ケースをそのまま転用すると、作品が小さく見えてしまうのです。そのためには会場に何度か足を運び、会場の広さ、展示室の構成、天井の高さ、柱や出入口、非常口の位置、電気の配線や容量、会場の雰囲気などを十分考慮して平面プランを作成します。その場合、展示品の年代別、技法別、器形別の分類方法をどうするか、すなわち、どのような順序で、どのような作品の組み合わせで展示するか、床の間に当る重点展示ケースの位置を、どこに持ってくるか、観客の誘導をどのようにするか、などが問題になります。展示品の写真をごく小さく縮小して、平面プランの図面に置いて、ああでもない、こうでもないと検討していくのです。

次は会場全体と、個々のケースに貼る紙の色の決定です。特殊紙を使うことが多いので、折角決めた色が、品切れやら、色見本と違っていたりすることがあり、また選び直さなければならないこともあります。こうしたことは、すべて具体的なケースが出来ていない前に考えることですから、頭の中の想像だけで事を運んでいかねばなりません。よほど想像力をうまく働かせないと、出来上ると散漫な会場になってしまいます。しかし、思い描いた通りの会場の施工が出来上がり、そこに展示品を飾りつけ、ライトをつけて落着いた雰囲気がかもしだされると、その時やっと、長い間の苦労が一時に癒され、学芸員冥利を感じることになるのです。

1988年6月15日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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