友の会通信

美術館の舞台裏(2)
当館のユニークな設備の一つに、自然採光展示ケースがあります。

美術品の展示には照明が大きな役割を果たしますが、光源に自然光を用いる方法それ自体は珍しいものではなく、古い博物館ではほとんど採用しています。しかし従来の自然光利用には一つの枠づけがありました。それは自然光を展示室全体に取り入れて、その明るさで物を見せるということです。そのために天井や壁の上方に大きな採光窓を設けていますが、大きな絵画や彫刻を展示する場合には有効な方法です。しかし、ケースの中に物を入れて展示する場合、ケースの中が最も光が届き難く、条件が悪くなってしまいます。

当館では従来の発想を逆転させました。すなわち部屋は暗くして、展示ケースの上をぶち抜いてそこへ自然光を取り入れようという考え方です。さまざまな実験を長期にわたってくり返し、漸く一つの方法に到達しました。光ダクト方式がそれです。つまりケースの上に光の煙突を作るのです。煙突の内壁には光の反射効率を高めるため、0.7ミリという薄いガラスを使った特殊反射鏡を貼り廻らせました。ケースに使うガラスも、眼鏡レンズを作るための白板ガラスという特殊な青味のないガラスを使用しています。ケースの中の展示としては、ほぼ、理想的な条件を作り上げることに成功したといえましょう。

こうした中で四季それぞれ、朝昼夕、晴れ曇り雨など、自然のうつろいの中で陶磁器が鑑賞できるのです。暗くなると自動的に人口照明に切りかわります。自然光と人口照明が混じり合うことはありません。これも自然光を重視した結果です。晴れた日の朝、透明感に満ちたケースの中で見る青磁の色の味わいは格別です。始めて見た方には驚きを、何度も見る方には尽きない興趣をわき起すことでしょう。

1986年9月10日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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