友の会通信

美術館の舞台裏(32)
学芸員の資格について、一般にはあまり知られていないようですのでご紹介しましょう。

学芸員の資格は資格認定と試験認定に大別されます。試験認定は、主として大学卒業後、学芸員の資格を取ろうとする人に対して試験によって認定されるものです。しかし、この試験は難しいことで定評があります。一方、資格認定の方は、大学で必要な科目を修得すれば、自動的に資格が取れ、比較的楽な方法です。したがって、大学で学芸員コースを履修する学生は跡を絶たず、毎年多くの学芸員資格認定者が生れていきます。一般の方の中には、その資格を大変権威のある資格と勘違いされ、うちの子供は学芸員の資格を持っておりまして、と得々と話されることがありますが、実はこれは私ども美術館関係者にとっては噴飯ものなのです。

さらに次のような事情もあります。学校の教員、医師、看護婦、不動産鑑定士などの資格はもちろんのこと、自動車の免許にいたるまで、国が定めた資格認定者には免状が交付されます。学芸員も確かに昭和42年までは、資格証明書が発行されていました。しかし昭和42年以降は、「事務手続き改善のため」という理由で交付は取り止めとなってしまいました。学芸員の資格とはたかだかそのようなものである、と言えないでもないよい証拠でしょう。一方、美術館・博物館に学芸員として就職しようとすると、この資格が物を言うことになります。博物館法には「博物館に、専門的職員として学芸員を置く」と謳っており、学芸員を志望する人は、その資格を持っていることが条件づけられることが多いからです。採用する側から言うと、学芸員の資格を云々するより、その人の研究業績なり資質の方を重視するのが当然でしょう。学芸員を志望される場合は、とにかく自分の専門分野を決めて、その分野の学界で認められることが早道です。その意味で、大学で認定される学芸員の資格とは、学芸員の必要条件ではあるが、十分条件とは到底なり得ないことがお分かり頂けると思います。欧米の学芸員とは、その地位、仕事の内容が大きく違っており、これについては改めてご紹介することとします

1994年4月25日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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