友の会通信

美術館の舞台裏(27)
安宅コレクションの米国巡回展に対する現地の反響を、ニューヨークを例にしてご紹介します。

テレビでも数回取り上げられたようですが、やはり新聞の展覧会批評がもっとも的確でしょう。ニューヨーク最大のニューヨーク・タイムズ紙は二回にわたって美術欄半頁ほどの紙面に掲載。あるいは世界中にネットワークを持つインタナショナル・ヘラルド・トリビューン紙は、美術欄のほぼ全頁を展覧会評に割きました。これらはメトロポリタン美術館の最大級の展覧会評と同じ扱いだそうです。

これらの記事は、展覧会を二つの側面から捉えています。一つは朝鮮陶磁の魅力に対する関心。他の一つはコレクションの創始者・安宅英一氏という人物に関する興味です。それは記事見出しを見ても、容易に読み取れます。6月14日付、ニューヨーク・タイムズは「朝鮮陶磁に対する一人の男の情熱」。6月 19日付の同紙は、「つつましい壼や鉢は、金よりも貴重」。5月30日付ヘラルド・トリビューンは、「アジアのコレクション・収集の物語」などです。ニューヨーク・タイムズのホランド・コタ−記者は、朝鮮陶磁を評して「多くの作品は快く手に持てるほどの大きさであるが、それらの持つ精神性と美はきわめて大きい」といい、ヘラルド・トリビューンのソーレン・メリキャン氏は、高麗青磁の美を「あたかも詩とでも言えそうな」と讃えています。ニューヨークの批評家にとって初めて知ったといってよい朝鮮陶磁に、一種のカルチャー・ショックを受けたようです。おそらくそれは王侯貴族向けの高級品においてすら、きわめて「自然らしさ」を備えている朝鮮陶磁に現代芸術への刺激を認めたからに相違ありません。

展覧会の意義については、ソーレン・メリキャン氏の批評の結びの言葉がすべてを言い表していると思います。「この並外れた展覧会は、韓国文化の余り知られていない側面に焦点を当てていると同時に、少なくともこの大陸の隣国に深く影響を受けている日本の美意識というものについて、多くを語っているようだ。」

1992年12月26日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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