友の会通信

美術館の舞台裏(21)
去る5月17日、西尾大阪市長から安宅コレクションの海外貸出しが発表されました。今秋11月27日からのシカゴ美術館を皮切りに、来春2月にサンフランシスコ・アジア美術館、5月にニューヨーク・メトロポリタン美術館と、アメリカを代表する美術館、3館を巡回いたします。今までの数点づつはアメリカや韓国の美術館に貸出したことはありましたが、114点という規模で、しかも代表作ばかりを選りすぐって海外に貸出すことは、1982年の当館開館以来はじめてのことであり、さらに1951年の安宅コレクション創設以来、かつてなかったことです。文字通り、世界の檜舞台への初登場ということになります。

今回は、常設展の内容の質的水準を維持するため、数の少ない中国陶磁はとり止め、質量ともに豊富な高麗・李朝陶磁に限りました。今日、高麗・李朝陶磁に対する関心は世界的に高まってきており、とくにアメリカの一部の美術館では近年、展示部門の拡張や収集活動の活発化などが目立ちます。

朝鮮半島の陶磁に対する日本のかかわりは、古くは古墳時代の須恵器の導入、桃山から江戸にかけての高麗茶碗の将来と注文生産があります。近代に入ると大正から昭和にかけての民芸運動による李朝陶磁の再評価が挙げられます。19世紀末以来の出土品によって高麗青磁の収集は世界的にひろがりましたが、李朝陶磁に理解を示したのは韓国以外では、日本に限られていたといっても過言ではありません。第二次世界大戦以前に将来された高麗李朝陶磁を、戦後に集大成したものが安宅コレクションといわれていますが、安宅コレクションは日本人の高麗李朝陶磁への審美眼を示す一つの典型例といってもよいでしょう。

アメリカにおける安宅コレクションの紹介が、一つは高麗李朝陶磁そのものに対する評価、もう一つはそれを選んだ日本人の美意識に対する評価という二つの面で、どのような反響があらわれるか興味のあるところです。

1991年6月25日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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