友の会通信

美術館の舞台裏(19)
今回と次回は、版権の問題を考えることとします。版権は著作権とも言い、今日では著作権という言い方が普及しています。著作権とは、学問や芸術などの作品の制作者が、その作品の複製、出版、翻訳、映画化などに際して、経済的な利益を得る権利のことを指します。

美術館における著作権問題で最も大きなものは、写真の使用料の問題です。ほとんどの美術館では、所蔵する美術品の写真を第三者が使用しようとする時、使用許可を与え、使用料を徴収しています。欧米の美術館では、写真の無断使用については厳しく取締り、罰金を徴収することもあるようです。

ここで興味深い例を挙げましょう。ある出版社が以前、ある美術館の所蔵する美術品の複製を、その美術館の許可を得ないで作って、販売しようとしたことがあります。美術館側は、所有権の侵害を主張して訴訟しました。出版社としては、その美術館がその美術品を購入する以前の所有者から、複製することを前提とした写真原板を、第三者から合法的に買い取っていたので問題はないと主張しました。この裁判は遂に最高裁まで持ち上げられ、そこで出た判決は、美術品の所有者は、それを撮影した写真についての権利までは持ち得ないというのもでした。

ここで一つ注意しなければならないのは、この裁判の対象となった美術品は古美術品であったことです。制作後50年を経過した作品については、制作者は著作権を喪失してしまいます。従って裁判の対象となった美術品が現代の美術品であったとしたら、その美術品の所有者だけでなく、制作者の著作権の問題ともからんで、又、別の判決が出たかも知れません。少くとも古美術品に関する限り、その美術品の所有者は、既に撮影され第三者の手に渡っている写真や複製の図版を、どのように使われようが文句を言えないというのが法律的な解釈です。事実、一部の美術館では、写真の使用料を徴収しないという方針を打ち出している所もあります。しかし、なかなかこのように割り切ることが難しいのが現状のようです。

1990年12月27日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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