友の会通信

美術館の舞台裏(15)
1989年も、あとわずかで終ろうとしています。今年の企画展をふり返って、企画の方向づけの確認と、問題点を書き加えたいと存じます。

第一に、海外の美術館の蔵品を紹介する企画展として、「シカゴ美術館中国美術名品展」がありました。同館の東洋美術部門がこのようなまとまった形で館外に紹介されるのはこれが初めてで、アメリカの美術館関係者にも好評を博したほどです。しかし同館には1,000点にも上るすぐれた中国の玉器のコレクションがありますが、玉器は日本ではあまり一般受けしないため、ごく一部の紹介にとどめました。学問的な立場と同時に、観客動員という現実的立場も考えなければ美術館の事業は進めて参れません。この場合も、すぐれた玉器のコレクションを系統的に紹介できなかったことが心残りです。

第二に、最近の考古学の成果を取りいれた企画として「桃山の茶陶展」がありました。近年の考古学的な陶磁器の調査の対象は、生産地のみならず消費地にも及んでいます。京都という1,000年の歴史を持つ大消費地から膨大な量の陶磁器片が出土していますが、その中から近世の茶陶に絞って、それを伝世の茶陶と比較対照できるように展示したものでした。陶片資料が主役をつとめる地味な企画でしたが、大きな反響を呼び起しました。その理由が、茶陶をテーマにしたからかどうか、私共としては見きわめをつける必要があります。今後、陶片資料を中心とする企画展をどのように展開すればよいか考える上で、重要なポイントとなるからです。

第三に、現代陶芸を紹介する企画として「ルゥーシー・リィー展」がありました。日本ではほとんど知られていない作家ですので、おおきな不安がありましたが、結果的には満足すべき成果を収めました。この場合も、三宅一生氏とのかかわりがどのように反映していたかを、見きわめる必要があります。現代作家を取りあげる場合、どのようなアプローチをするべきかを考える上で、重要なポイントとなるからです。

第四に、当館の専門分野の一つ、朝鮮陶磁シリーズ第14回の「李朝後期染付展」。このシリーズは、海外でも次第に評価されはじめています。従って英文版図録の作成が必要となって来ますが、それにどう取り組むかが今後の課題の一つです。さて来年は、正月気分に満ちた「呉須赤絵展」から開幕します。どうぞよき新年をお迎えになりますように。

1989年12月15日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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