友の会通信

美術館の舞台裏(13)
5月から6月にかけて、当館では「桃山の茶陶展」を開催しました。この展覧会を例にとって、展示についての問題をいくつか考えたいと思います。

当館として茶陶の展覧会を開催するのは、開館以来初めてのことで、展示の方法一つ取りあげてもいろいろな問題にいき当りました。まず茶陶の展示には、箱書や至服、書付けなどを同時に並べるのが一般的です。しかし当館では、茶陶というものをあくまで物自体のもっている造形的魅力だけでお見せしようという立場を取ることとしました。いわば“裸”の状態で茶陶をごらん頂こうということです。そのために付属物の展示を取りやめたほか、敷板も茶陶によく用いられる杉板や蛤板のような特殊なものではなく、当館で平常使用している布ばりの敷板を用いました。これはまた、当館の展示室全体の雰囲気をできるだけ統一したものにしようという方針からの対応でもあったわけです。ただ、茶碗については、茶の湯の伝統の中で最も格式のある道具であることと、展示に少し変化を加える意味で、紫の袱紗を敷いた箇所もあります。

今回の展覧会では基本的に茶陶を茶陶らしくなく展示することになりましたが、いろいろの御批判はありましょうが、茶陶を純粋にやきものそれ自体で見る一つの立場は貫かれたように思います。

もう一つ、当館の展示設備は鑑賞陶器の展示を主体に作られていますので、茶陶の中でも茶碗の展示には問題があることを改めて痛感いたしました。すなわち、展示台の高さが床面から1,100ミリと固定されていますので、茶碗の見込みを見ようとしても容易ではありません。茶碗を少し手前に傾けて展示すれば見込みは見えますが、大事な品を拝借している立場からは、そのような取り扱いは許されることではありません。また展示ケースの前に低い踏み台を置くことも検討しましたが、混雑してくるとひっかけて倒れる人が出ることも予想されますので中止いたしました。その代り、不自然なほど前寄りの位置に茶碗を置くなどの工夫をした箇所もあります。しかし腰をかがめることなく、楽で自然な姿勢で物の形や質を十分に観察できる点では、当館の展示ケースはそれなりに有用ですので、今後ともさまざまな工夫を重ねてより見易い展示を心がけていきたいと存じます。

1989年7月5日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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