友の会通信

美術館の舞台裏(7)
開館5周年記念「李朝陶磁500年の美」展が11月23日、好評裡に終了しました。この企画展に対する反響は、私共の当初の予想をはるかに越え、入館者も38,000人を上廻る成績を収めることができました。その反面、連日の混雑でゆっくりと御鑑賞頂けず、御迷惑をおかけしたこともあったかと思います。

当館のような小規模の美術館では、大きな企画展を開催する場合、いつも話題となるのは、入館者数と鑑賞環境整備の問題です。すなわちできるだけ多くの方にごらん頂きたいという願いと、できるだけゆっくり落ち着いてご鑑賞頂きたいという願いがぶつかり合うのです。特にやきものの展観では、絵画展などやや離れた位置から鑑賞できる場合と違って、一点一点身をかがめ手に取るように鑑賞される方が多いため、一人当りの館内滞留時間が長くなり、混雑の度合もひどくなります。こうした問題を解決するには、一つには入館者の皆さんに比較的空いている午前中に御来館頂くか、もう一つは時差入館制の導入を考えるかです。

時差入館制とは、例えば何日の午後何時の入館ということを指定した前売券を発売することで、それ以外の時間には入館できません。この方法は、アメリカではすでに大きな展覧会でよく利用されているようです。芸術の鑑賞でも音楽会の場合は、日時指定の前売券を買うことが習慣になっていますが、美術展鑑賞でもそれなりの準備、手続=前売券の購入ということが納得されるようになれば、日本でもやがては普及していくと思いますが、現状ではまだ時期尚早という感じがいたします。

今回の企画展での反響の一つは、初めて見た(或いは今迄見てはいたが)李朝のやきものに心を大きくゆり動かされ、人生を省るよい機会となったという趣旨の投書がいくつかあったことです。これは正に私共がこの企画展の狙いとしたこと、すなわち現代におけるやきものの持ち得る意味合い、役割ということが正確に受けとめられたことの一つの証拠で、私共としても嬉しく思っています。

もう一つ余談を申しますと、図録の売行きが予想をはるかに上廻る爆発的なものであったということです。計算をしますと3〜4人に1人買い求められたという結果になり、この種の展覧会図録としては異例な数字を示しました。暑い夏から2〜3ヶ月、休日なしで深夜に至る作業を繰り返し、それこそ生命をすり減らすような努力をした甲斐があったと、喜びをかみしめています。美術館員としての生き甲斐、働き甲斐は展覧会が終ってからようやく味わえるようです。

1988年1月5日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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