友の会通信

美術館の舞台裏(6)
10月14日から特別企画「李朝陶磁500年の美展」が開かれますので、開催までのプロセスを御紹介しましょう。

まず企画を立てたのは昨年夏、今年は開館5周年に当りますのでそれを記念する意義あるものをと考えて、当館館蔵品の中でも最も充実した李朝陶磁を取り上げることにしました。大正年間以降、日本に請来された李朝陶磁がどのようなものであったかを振り返り、それに李朝陶磁の歴史をダブらせる試みです。このテーマに沿って出品物を選定しますが、館蔵品以外にも日本には多くの優品が知られています。中には門外不出のものもあり、その交渉のために昨年秋から何度もお願いに上り、今年の夏前にようやく御了解を得たものもあります。何をどのように展示するかが展覧会の質を決定しますので、出品物の選定と出品交渉が第一の山場です。今回は初公開のものが30数点にのぼりますが、候補作よりさらに適当な作品が見つかると、また入換えたりして、最終的に決定したのはようやくこの8月に入ってからでした。

第二の山場は、図録の作成です。単に出品物の図版を掲載し、簡単な解説を添えるだけの図録なら、大した困難はありません。しかし何か新しい工夫を加えるとなると、それこそ心血を注ぐ作業が必要になります。今回の図版にはカラー図版が小さいものまで含めて500点以上掲載されています。その撮影だけ考えても並大抵のことではないのです。また李朝陶磁に関する古文献資料を拾い上げていますが、研究書から該当する箇所を選びだし、今度はその引用されている文章が間違いないかどうかを原典に当って確認する作業が入ります。膨大な書物からそれを探し出すには時間がかかります。当館の蔵書にない場合には、朝鮮関係の図書が揃っている天理大学図書館まで足を運ばねばなりません。また年表一つ作るにしても、日本で戦後刊行された年表には誤りが多いため、今度は李朝 519年にわたって調べ直し、年表と作り変えました。1項に519年間の李朝・中国・日本の対照年表をすべて収録しましたので、利用する方には便利でしょう。

出来上ったものを見ると何でもありませんが、このような作業には長い時間と大きな労力を要します。展覧会の会期が迫ってくると、時間との闘いになり、連日連夜、時には暁方近くまでの作業が続きます。夏から秋にかけては、学芸員にとって最も忙しい季節なのです。

1987年10月5日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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