沖正一郎コレクション 鼻煙壺室

本展示室は、鼻煙壺の世界的なコレクターとして知られる沖正一郎氏から1,200点の作品をご寄贈いただいたことを記念し、2008年に開設されました。
鼻煙壺とは、嗅(か)ぎタバコを入れる小さな容器です。嗅ぎタバコは粉末状のタバコを鼻腔(びこう)に吸い込んだりこすりつけたりして香りと刺激を楽しむもので、16世紀半ば頃にアメリカ大陸からヨーロッパに伝えられました。煙や匂いのでない優雅なタバコの嗜みかたとして特に17~18世紀の王侯貴族などを中心に大流行しました。
嗅ぎタバコは、17世紀後半頃までに中国へ伝えられ、清朝の宮廷で流行し、次第に一般にも普及していきました。湿潤なアジアの気候にあわせた密閉式の中国独自の容器が生まれ、これが鼻煙壺と呼ばれるものです。小さな壺や瓶に蓋がかぶさり、蓋には匙が付けられタバコをすくい出すことができます。鼻煙壺は大部分が手のひらに入るほどの大きさで、実用品であるとともに身近な愛玩品でもありました。磁器やガラス、玉(ぎょく)、瑪瑙(めのう)など各種の材料に、高度な技術で精巧な装飾をしたものが作られ、美術工芸品の一ジャンルを確立しました。

沖コレクションの鼻煙壺は、陶磁をはじめ、ガラス、玉石、金属、漆、木など材質が多岐にわたるだけでなく、それぞれがさらに技法別、文様別などに分類が可能で、たいへんバラエティーに富んだ構成となっています。本展示室ではそのような特徴を最大限に活かして、材質、器形、文様など様々な視点から、中国工芸の精華ともいえる、鼻煙壺の魅力を随時ご紹介いたします。