友の会通信

美術館の舞台裏(8)
今回は、当館の常設展の展示方針についてお話ししましょう。

前にも触れましたように展示、保存、研究、普及という博物館活動の中で、当館は鑑賞本位の展示活動に重点を置いています。東洋陶磁の美しさなり魅力なりを十分感得して頂くことが、鑑賞と研究の出発点であるとの考えから、当館の館蔵品のいわば精鋭ぞろいで常設展を構成しています。東洋の絵画や漆工芸などのように、作品保存上から長期の展示が好ましくない場合を除いて、欧米でも常設展の展示内容は変えられないことが多いようです。それは美術館は、一時的な展示をする臨時の施設ではなく恒久的なものであり、また何時訪れても見慣れた作品がそこにあるという一種の安心感を与えることに一つの機能があるという認識から来ています。いわゆる名品と呼ばれる美術品は何時見ても、何回見ても新しい感動を呼び起こします。美術館は、その常設展示において一つの美の基準というものを絶えず提供している施設でもあるのです。こういった美術館のあり方に対する考え方とともに、当館の特殊な事情があります。

第一に収蔵品の種類と点数からくる制約です。当館には約1,000点収蔵されていますが、 東洋陶磁という分野に限られており、また1,000点のすべてが第一級というわけには参りません。B級、C級のものも含まれています。トップクラスのみ 展示されている所へ、B級C級のものを混ぜると、たちまち展示のレベル全体が低下していきます。作品にもそれぞれに格があり、格が揃っているところに一つの統一感が生じ、緊張感を呼び起すのです。

第二に、企画展の中心になる展示品の確保です。当館は年に3回、企画展を開催しています。館蔵品を展示することが多いので、その時に日頃紹介していない作品を出品することによって 新鮮さを狙いたい。さもないと企画展の内容は陳腐なものになってしまいます。 そのための予備軍を確保しているのです。

第三に、当館は海外をふくめ、遠方からの観客が多いことです。初めてお越しになる方達の為に、常に最高の物を御覧頂きたい。しかしそれには数と質の限界があります。このような事情から 常設展の内容をあまり変えていない現状について御理解頂ければと思います。

今後とも企画展を中心とした新しい展開に取り組んで行きたいと考えております。

1988年3月31日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
back