友の会通信

美術館の舞台裏(39)
文化財の保存と公開というのは、相反する矛盾した課題です。保存の立場に徹すれば、箱に入れて収蔵庫に保存するだけでなく、公開の立場に徹すれば、ケースから出して裸展示するのが適わしいことになります。保存と公開の両極点から出発してどの点で折合いをつけるかが、美術館を建設する場合や展示する場合の大きな問題点となります。

今回は建設予定地の立地条件について考えましょう。 文化財の保存に適さない立地条件とは何か。

第一に地形について言えば、急な傾斜地や低湿地などがあります。しかし海岸や湖岸に建てられた美術館も、かなりの数に上るのも現実です。指針というのはあくまでも指針であって絶対的なものではありません。ただ低湿地に建てる場合には、それなりの十分な防湿対策が取られなければならない、ということです。第二に地下水脈や活断層などのある地層や、軟弱地盤を避けなければならないのも当然のことでしょう。第三に気象条件で、例えば、多湿や塩害を予想される地域。しかし、豪雪や多雨地帯までも避けなければならないとすると、それらの地帯に建設を進めようとする人から不満が出るでしょう。日本は狭い国土ながら、気候条件にはかなり差があるため、柔軟な対応が必要となります。第四に周辺の環境。大気汚染や降灰地帯のほか、住宅過密地域などが指針では例に挙げられています。とくに住宅過密地域では、火災や盗難に対する配慮が必要となり、これは店舗過密地域に美術館を建てる場合の「複合施設」の項で改めて触れることとします。

ただ、指針には触れられていませんが、立地条件の中で忘れてはならないのは、アクセスの問題だと私は考えます。交通が不便で、しかも下車後、何十分も歩かなければならない場所なら、美術館に向かう人の足は自然に遠のいていくだろうからです。

1996年4月10日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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