友の会通信

美術館の舞台裏(36)
阪神大震災を契機として、保険の問題がクローズアップされています。美術館における保険の実情について述べることにします。

保険には損害保険と生命保険があり、美術品を対象とするのは当然、前者です。保険を掛ける美術品の評価額を保険金といい、それに定められた保険料率をかけて、保険料が算出されます。保険料率は、保険金額の多募(たとえば1億円までと、10億円以上とでは開きが出る)、期間、国内・海外の別によって異なり、また保険会社によって差があります。美術館が保険を掛けるケースには三つあります。即ち、A.館蔵品の保管・展示中、B.館蔵品の他への貸出し中、C.他から美術品を借受け中です。一般に国公立美術館では、Aの場合は掛けていないようです。Bの場合は、当然貸出し先の負担で保険を掛けることになります。Cの場合、保管場所から輸送され、展示期間を経て、再び保管場所に返却されるまでの期間全てに保険が掛けられ、一般に、損害保険の一種である運送保険と展示期間中の担保が加わる、という形が取られていることが多いようです。或いは動産総合保険という形が取られていることもあります。これらの場合、借受ける相手が国内か海外によって料率は変ります。

美術館の事情により、次のような特約をつけることがあります。 1.事故が起きた場合、館員、或いは作業員が責任を追及されることを防ぐ「求償権放棄」、2.事故がなかった場合、保険料の一部が返戻される「良績戻し」、3.とくに陶磁器の場合、キズがついたことによる美術品の評価額の低下に対してつける「格落損害担保」などです。

地震については、海外への貸出し、海外からの借受けに対しては保険を掛けますが、国内の貸出し、借受けに対しては、一般的に保険料が非常に高いため掛けられた例はほとんどなく、また現在、保険会社の方が引受けてくれないため、手の打ちようがないのが実状です。

1995年7月25日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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