友の会通信

美術館の舞台裏(35)
1月17日早朝の阪神大震災は、人智の限界を超えたもので、大自然のおそろしさをつくづく思い知らされました。被災された多くの方に、心からお見舞いを申し上げます。

この地震による美術館・博物館の被害が大きく伝えられています。建物自体が倒壊の怖れのあるもの、外壁やガラスに損傷を来たしたもの、地下に湧水が生じたものなど施設面での被害、そして収蔵品や展示品など美術品の被害、多くの館で何らかの被害を受けている中で、当館の場合、施設にも美術品にもまったく損傷が無かったのは、幸いと言うべきでした。しかし展示ケースの中で、展示中の重要文化財をふくむ9点が転倒し、漢の楼閣の上下二層のうち、下層の位置がずれて上層があわや転落しそうになっていたことなど、すべてを点検し終わるまで、心臓の縮む思いを致しました。美術館から東へ数10メートルの地点に建てられた大きな石碑を囲む石柱がボキボキ折れているのを見て改めて揺れの激しかったことを思い知らされました。

美術館の建物自体、十分耐震性を考慮した構造を持っていたことのほか、日常から地震対策を講じ、展示間隔をひろく取って展示品のぶつかり合いを避けたり、展示台に対衝撃性のある布を貼ったり、倒れ易い作品には芯棒を入れ、或いはテグスで支えたりなどしていたことなども、効を奏したのかも知れません。関西地区で地震対策をとっていたのは、17館中わずか7館だったという全国美術館会議のアンケートがありました。

1995年4月25日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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