友の会通信

美術館の舞台裏(5)
美術館の仕事のうち、大きな割合を占めるのが展示事業です。むしろ展示という仕事がなければ、美術館は研究所か、宝物庫になってしまうでしょう。その展示事業は、企画の内容によって左右されます。学芸員は年がら年中、どのような企画を立てるかで頭が一杯になるわけです。ある美術館の館長は、そうした事情をふまえて、美術館の仕事の本質的な部分は「ランカイ屋」とも呼べるものだ、といったことがあります。つまり、展覧会屋という意味です。ただデパートや催会場で開かれる展覧会と異なるのは、恒久的な施設で、長期にわたる綿密な長さ研究活動の上で、非営利的に行う事業ということになるでしょう。

企画の立案は、テーマの設定から始まります。何を、どのように訴えて展開するか。テーマとしては面白くても、実現が不可能なものなら意味がありません。アンドレ・マルローは、かつて「空想の美術館」という書物を著したことがありますが、貴重な美術品を拝借することは、現実的にはなかなか困難な問題が多いのです。テーマの設定は、あくまで、展示する美術品が拝借できるかどうか、その可能性を睨み合わせて進めなければなりません。テーマに相応しい展示の対象として何を選ぶか、その選んだものの持主は誰か、借用の可能性があるか、といった情報が必要ということになります。学芸員としての能力には、こうした情報の質と量が問われます。今はやりの言葉でいうと、美術館の展示事業も情報産業の一端を担っているということでしょう。

ただ、今述べてきたことは、あくまで美術館の自主企画のことで、場合によっては、他館や他のプロモーターが立てた企画をそのまま流用することもあります。その場合は美術館は単なる貸会場のような性格を持つことになります。

1987年6月20日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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