友の会通信

美術館の舞台裏(4)
今回は、展示ケースの設備のなかで、見すごされがちな二、三の点について、御紹介しましょう。

まず展示ケースのガラス。当館の場合、ケースのガラスは、厚さ5ミリのガラスを二枚貼り合わせた「合わせガラス」を採用しています。強化ガラスがよく使われますが、これはある種の衝撃にはきわめて弱く、また粉々になって破れてしまうこともあるので、作品の保全上はかえって問題があるからです。

次にガラス戸の開閉の仕方。ガラス戸が固定式か、開閉式かは、作品を展示する場合の出し入れに大きく影響してきます。固定式の場合は、ケースのどこかに出入口があって、ケースの中に身をかがめながら人が入って、奥の方から順に物を置いていかねばなりません。陶磁器の展示の場合は、やはり、立ったまま、前方から出し入れできる方が、安全性、機能性の面ですぐれていると言えましょう。当館の場合は、ガラス戸が左右に開閉して、壁の中に納まるようになっています。前面左右開閉式の欠陥は、左右のガラス戸が引き違いになって二重に重なる箇所ができ、鑑賞の際のさまたげになることです。当館では、細い金属製の一本の縦桟に、二枚のガラス戸が納まってしますので、鑑賞上の問題は解決いたしました。

第三に、展示ケースの中に貼る材質も重要です。展示台の表面には、陶磁器を置いた跡が丸くついていることがよくあります。当館では、摩擦に強い材質を探した結果、自動車の座席に使用する布地が適当であることが判りました。陶磁器を置いたり外したりしても、ほとんど跡形は残りません。その布地を、暖かいラクダ色に特染めしてあります。また、ケースの壁面には、視覚的に柔らかい印象を与えるフラノ地を、同じ色合いに染めて張りつめるなど、さまざまな工夫をこらしています。

次回からは、美術館の舞台裏、いよいよソフト面に入っていきたいと思います。

1987年2月23日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎
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