大阪市立東洋陶磁美術館

友の会 コラム

美術館の舞台裏(1)

美術館の活動は、大きく分けて、展示、収集、調査研究、普及の4つの部分から成り立っていることは、前にも申し上げた通りです。これらの活動を支えている舞台裏の装置や実情は、皆さんの目に触れていても気がつかないことや、外部に現われていないことも多いと思います。美術館の仕事、とりわけ当館の活動方針や考え方を御理解頂くために、当分、展示活動を中心に、舞台裏の仕組みをいろいろ御紹介して行きたいと思います。

展示活動には、ハードの部分とソフトの部分がありますが、ハードの部分、すなわち展示設備から始めましょう。当館の場合、幸いなことに建築設計の当初から特に細心の注意を払い、展示設備はほぼ理想的な状態が実現しています。展示設備は、見る側からすれば見易く、使用する側からすれば使い易い事が基本条件です。当館の場合、見易い、物がよく見えるとよく言われますが、その舞台裏はどうなっているのでしょうか。

まず第一に、展示品を置くケースの台を、適当な高さで統一したことです。日本人の平均的な身長を勘案して経験的に割出したのが、1100ミリという高さでした。この台の上に置かれた展示品は、目の位置から見て、最も自然で無理のない姿勢での鑑賞を可能にします。また、ケースのガラスの高さも、 1100ミリに統一しています。大きなガラスは、その中に置かれた陶磁器を、小さく見せてしまうからです。

第二に、ケース内の照明方法に工夫をこらしたことです。人口光線は蛍光灯と白熱灯の二系統を使っていますが、ケース毎に調光が可能です。染付のケースでは蛍光灯を強く、赤絵や鉄砂のケースでは白熱灯の方を強くするなど、陶磁器の種類によって光の性質が変えられます。また、光源の一部を遮光幕によって、展示品の背後の壁面を暗くしています。このため展示品は、自然な感じで、明るく強調されて見えるのです。

第三に、展示ケースの前にてすり手摺を設けたことです。ケースのガラス越しに陶磁器を鑑賞する場合、できるだけ近づく必要がありますが、幅のひろい平らな木製の手摺が大きな効果を挙げていることは、皆さんもお気付きのことでしょう。これらのことはすべて、陶磁器を如何にすれば最も美しく見せられるか、鑑賞本位に考えた末の工夫の一端で、当館が博物館ではなく、美術館を標榜している証しの一つともなるのです。

1986年5月15日 大阪市立東洋陶磁美術館
館長 伊藤郁太郎