主な出品作品

• 

  Iridescent Tenmoku

  ジャン・ジレル（Jean Girel、1947～）作
  2016年
  高6.7cm、口径12.1cm
  大阪市立東洋陶磁美術館（Ngiam Thong Kin氏寄贈）
  撮影：小林仁

  ジャン・ジレル氏は、フランスで唯一の陶芸の人間国宝（メートル・ダールMaître d'Art）に認定されているフランスを代表する陶芸家です。「Iridescent Tenmoku」、すなわち「虹色（玉虫色）の天目」と名づけられた本作は、茶碗の内外に黒釉上に禾目状の斑文が表れ、さらに全体に青や紫などの美しい光彩のグラデーションが生じています。若き頃、中国宋時代のやきものに魅せられたジレル氏は40年以上にわたり独自の天目を探求し、東洋の伝統と西洋の技術・感性が見事に融和した新たな天目を生み出しました。今回、初公開となります。

• 

  曜変

  ようへん

  九代 長江惣吉（1963～）
  2006年
  高7.1cm、口径12.3cm
  個人蔵

  瀬戸の陶芸家・長江惣吉氏は、父・八代長江惣吉（1929〜1995）の曜変天目再現の研究を受け継ぎ、親子二代で曜変天目の「再現」に取り組んでいます。宋代建窯と同じ原料や焼成方法などによる宋時代の曜変天目の「再現」にこだわり、建窯窯址にもこれまでたびたび調査に訪れ、現地の粘土や釉薬の原料を採掘・輸入して用いています。長江氏はこれまでの自身の調査研究から、曜変の光彩（虹彩）が付近で産出する蛍石を用いた酸性ガスによる冷却段階における化学作用によるものと考え、その再現に応用しています。本作は2006年につくられたもので、長江氏の代表的な「曜変天目」としてたびたび紹介されていますが、自身は「再現」作品としての完成度には満足していません。本作には、宋時代の曜変天目の「再現」に徹底的にこだわり続ける長江氏の「曜変天目」への思いと、親子二代の夢が垣間見ることができます。

• 

  曜々盞

  ようようさん

  九代 長江惣吉（1963～）
  2020年
  高6.8㎝、口径12.3㎝
  個人蔵

  曜変天目再現研究の研究者としても国内外で活躍している長江氏は、これまでのその研究成果を踏まえた知識と技術を応用して、美しい虹色の光彩を活かした独自の作品を創作しました。それがこの「曜々盞」です。曜変天目の再現研究の副産物といえるものです。

• 

  見立漆器 油滴天目

  みたてしっき ゆてきてんもく

  彦十蒔絵・若宮隆志（1964～）
  2020年
  高7.5cm、口径12.1cm
  個人蔵
  

  当館の国宝「油滴天目」を漆器で再現した作品です。「見立漆器」の名が付けられています。「見立（見立て）」とは、あるものを別の似たものでなぞらえることで、江戸時代の芸術や芸能、文学などで盛んに行われた趣向でもありました。彦十蒔絵の若宮隆志氏は漆芸技法を用いて天目などの陶磁器や青銅器など異なる材質の「見立」に果敢に取り組んでいます。本作では、軽くて丈夫な欅（けやき）の木地を「天目形」に成形してから、漆を塗り、色漆や蒔絵の技法を駆使して、油滴の斑文や釉薬の質感から微妙な光彩の色合い、そして底部の胎土の質感まで見事になぞらえています。口縁部の金覆輪も漆と金粉によるものです。実際、手にとると驚くほど軽く、漆器であることが体感でき、喫茶碗として実用にも十分に耐えるものです。外観は油滴天目ですが、手に撮った瞬間の驚きこそ、「見立漆器」の真髄です。なお、内面にはハート状の斑文をまぎれ込ませているのも作者の遊び心といえます。「ハート斑文」を見つけられた方にはさらなる幸運が訪れるかもしれません。ぜひ探してみてください。
  >>作品紹介
  >>制作動画
  

• 

  曜変天杢

  ようへんてんもく

  螺鈿漆器（虎杢栃材、鮑貝）
  2019年
  高7.3㎝、口径12.2㎝
  個人蔵

  大阪在住の漆芸家・藤澤秀行氏は、漆器による樂茶碗の制作で知られています。陶器と見まがうばかりの「漆の樂茶碗」で独自の世界を切り開いた藤澤氏が近年取り組んでいるのが漆器による曜変天目です。曜変の光彩が構造色であることに着目した藤澤氏は、同じ構造色による虹色の発色を見せる鮑貝の内側部分を薄く研磨し板状にしたものを、さらに曜変の斑文のようにリング状に焼き切り、それを漆器の表面にはめ込む「螺鈿（らでん）」の技法で曜変に挑みました。斑文の周囲には極小の貝片を散りばめ、光彩を表現しています。また、素地となる木材にもこだわり、「虎杢（とらもく）」と呼ばれる虎模様の生じた栃の木を用いて、碗の外面はその模様をそのまま活かしています。作品名称の「曜変天杢」は、漆芸家としての曜変天目へのこだわりがうかがえます。螺鈿による斑文や光彩は曜変天目と同様、永遠の輝きを見せています。

• 

  木の葉天目茶碗

  このはてんもくちゃわん

  笹岡基三（1936～2019）
  1974年
  高5.7cm、口径14.4cm
  大阪市立東洋陶磁美術館（笹岡禮子氏寄贈）

  笹岡基三氏は三重県四日市の萬古（ばんこ）焼の名工・初代笹岡春山（1893〜1965）の次男として生まれました。15歳で家業の手捻（びね）りの萬古焼の急須づくりなどに従事するようになりました。その後31歳で独立して、中国陶磁の研究と再現・創作に取り組むようになり、青磁や白磁、天目、紅釉、紫紅釉など多彩な釉薬技術と繊細な造形感覚の作品を多数生み出しました。なかでも30歳の頃に重要文化財「木葉天目」に出会った笹岡氏は、研究と実験を重ね、独自の「木の葉天目茶碗」を完成させました。近隣の山で採取した木の葉は枯れかかって落ちる寸前の状態のものを用い、施釉して十分に乾燥させた木の葉を置いて焼くというシンプルなつくりで木葉天目の技法を見事に再現しています。晩年、大病を患いながらも、重要文化財「木葉天目」に金彩の痕跡があると聞いた笹岡氏は、焼成した木の葉天目にグラインダーで文様を削ってから金彩を施した「金彩木の葉天目」を生み出しました。さらに、曜変天目の研究に心血を注ぐなど作陶にかける旺盛な研究意欲は衰えることがありませんでした。ここに展示している笹岡氏の魅力あふれる「木の葉天目茶碗」４点からは、中国陶磁に魅せられ、その半生を地道な研究・作陶に打ち込んできた氏の実直で、強い意思をもった人柄がうかがえます。
  
  笹岡基三氏は2019年12月にご逝去されました。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。合掌

• 

  金彩木の葉天目茶碗

  きんさいこのはてんもくちゃわん

  笹岡基三（1936～2019）
  1973年
  高5.7cm、口径15.3cm
  大阪市立東洋陶磁美術館（笹岡禮子氏寄贈）

• 

  紫紅釉木の葉天目茶碗

  しこうゆうこのはてんもくちゃわん

  笹岡基三（1936～2019）
  1981年
  高6.2cm、口径13.2cm
  大阪市立東洋陶磁美術館（笹岡禮子氏寄贈）

• 

  紅釉木の葉天目茶碗

  こうゆうこのはてんもくちゃわん

  笹岡基三（1936～2019）
  1983年
  高5.2cm、口径15.1cm
  大阪市立東洋陶磁美術館（笹岡禮子氏寄贈）